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『触楽入門 はじめて世界に触れるときのように』 テクタイル 仲谷正史・筧康明・三原聡一郎・南澤孝太

初めましての方は「とりあえずご挨拶 - 本の棚」をご一読くださると幸いです。

 

暑い。暑いですね。夏です。暑くてもどこかへ遊びに行きたくなる季節ですね。涼しい家や喫茶店などでゆっくりと本を読むのも素敵ですが、せっかくの季節ですから、今回は身体を使って「遊べる本」を紹介したいと思います。

 

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『触楽入門 はじめて世界に触れるときのように』 テクタイル 仲谷正史・筧康明・三原聡一郎・南澤孝太

朝日出版社・定価1580円+税・ページ総数253頁)

 

わたしたちが日ごろ体感している様々な触感を記録・再生して、時間も場所も問わずに他者へその感覚を伝えることができる装置。そんな夢ある装置「テクタイル・ツールキット」を作った開発者たちが、“触れる”ことを“楽しむ”ための“入門書”として手掛けたこの一冊。

 

みなさんは、“触感”について普段生活している中でどれだけ意識していますか?

現代において、わたしたちは街中で舗装された道を歩き、会社では涼しい社内でPCを見て、周囲とのやり取りにはSNSを使います。とても安全で快適で便利な現代。でも、何かに実際に触れて、それを体感し、そしてそれを認識することってほとんど意識していない、意識する機会がない気がします。

 

快適になった現代を「よろこばしいこと」としつつも、そんな現代に「テクノロジーを使って」触感を取戻そうと試み、“身体で感じること”の大切さと面白さ、そしてその広がる可能性を教えてくれるのがこの本です。

 

ひとつひとつのお話がかなり面白いということはあまり説明するとネタバレになってしまうので読んでから実感いただくとして、ひとまず目次を少しご紹介。

1-1 もしも触感がなくなってしまったらどうなるか、想像してみよう――まるで幽霊になってしまったかのように感じる

2-6 タテヨコの区別がつかない、指先の錯覚を試してみよう――僕たちの指は案外テキトウだ

3-3 目で見ることで絵画に「触れて」みよう――視覚の中には、無意識のうちに触覚が入り込んでいる

4-1 絵の上に指を置くと因果性が生まれる?――自分のせいで世界が変わってゆく

などなど、興味深いタイトルがずらり。特徴的なのは内容の一つ一つが読者を巻き込むスタイルで語られていることです。

やってみよう!

どう感じる?

なんでだと思う?

小学校のとき、理科が嫌いでも面白い実験が目の前で行われると、思わず魅入ってしまったりしませんでしたか?そんな感覚で読める本です。

※裏表紙にまで仕掛けが。

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そしてこの本は、ただ触感の面白さを語るだけでありません。“触れること”が生み出す未来、その無限の可能性でもわたしたちを「あっ」と言わせてくれます。

もし、アスリートの身体感覚を体感できたら?今まで口述でしか学べなかったスポーツのスキルを実体験を通して学ぶことができるかもしれない。

触感を記録して再生することで「効果音」ならぬ「効果触」の作成が普及したら?映画館ではまだ存在しない近未来のモノに触れられるかもしれない。

ダンサーが感じている触感を観客が共有できたら?“見せる”しかできなかった表現が“体感できる”表現になるかもしれない。

他にもたくさんあります。いやぁ、ワクワクしますね。現代に触感を取り戻すことで、広がる世界がまだまだあるということです。

 楽しみですね。

 

触感というものは、わたしたちが思っている以上に、わたしたちの生活や未来に大きな役割をもっているみたいです。

 

記憶や願いといったものは、実体がなく、移ろいやすいものです。そもそも、私たちの存在それ自体がはかないものであり、だからこそ私たちは、誰かが亡くなったらお墓を建てるなどして、その人の存在をモノに刻みこもうとするのでしょう。(中略)

私は(あるいはあの人は)、かつて/あそこに確かに存在していた。そのことを、いま/ここに存在しているモノが語っている。この存在の感覚は、身体を使ってモノに触れ、そのモノとしての「重み」をありありと感じるからこそ、実感を持って感じられるのではないか。私にはそう思えるのです。 (P.225『触感を探す旅へ』)

 

 

ぼやっとしていると毎日は飛ぶように過ぎていきます。この本を読むことで自分の触感をちょっぴり研ぎ澄まして、世界をいつもより少し丁寧に感じてみるのもいいかもしれません。

 

ぜひ楽しんで読んでみてください!

 

 

P.S.

 8月に持ち寄りで本を紹介するイベント「本プレ」が神戸元町にある書庫バーさんにて開催されます!(わたしがほんのほんのちょっぴりお手伝いさせてもらっています。)イベントの詳細は下記リンクに近日アップされる予定なので、要CHECK!

https://www.facebook.com/bookstacksbar/