『キッチン』 吉本ばなな
初めましての方は「とりあえずご挨拶 - 本の棚」をご一読くださると幸いです。
お久しぶりです。まだ書いてました。
ちょっとドタバタしておりました。
暑くなってきてますね。
日々忙しくする中でちょっと疲れちゃったり、
たまにはため息なんかついちゃったりしますね(しませんかね?)。
そんな中でオススメする一冊、テーマは「生きていくこと」。
『キッチン』吉本ばなな
(新潮文庫・定価430円+税・ページ総数197頁)
ロング・セラーとなったデビュー作が本作品。
表題作『キッチン』と処女作である『ムーンライト・シャドウ』が
収録された短編集です。
ちなみに『キッチン』は海外でも広く読まれている作品であり、
1989年、1997年の2回映画化もされています。
こちらの本、薄くて、小さくて、持ち運び超便利です。
“テーマが「生きていくこと」とはたいそうな。” そんな声がとんできそうですが、
もっと言うと、この作品は人の死が大きな軸になっています。
“重いな” そんな声もとんできそうですが、そうでもないです。
この本は、普通に、もしくは劇的に、「生きていく」私たちに、
極シンプルに、何か必要なものを与えてくれる一冊です。
表題作の主人公、突如祖母を亡くした少女みかげが、
あるきっかけから
雄一という青年とその母えり子の元で奇妙な居候生活を始める中で
見るもの、受け止めなくてはならないもの。
処女作の主人公、恋人を亡くした少女さつきが
“息の根が止まるかと思うくらい”の苦しさと向き合う中で
出会うもの、受け止めるもの。
二度と会うことのできない人との別れを経て、
どうしようもない大きな寂しさと、どうしようもなく大きな優しさを
兼ね備えながら進んでいく日々を
彼女は、彼女たちは、何を考え、どうやって生きていくのか。
この本で注目すべき点の一つは言葉です。
登場人物たちの感情が強く伝わってくる台詞。
ふとした一言で一気に彼女・彼らの感情が胸に迫ってくることもしばしば。
私が笑ってそう言うと、ふいに雄一の瞳から涙がぽろぽろこぼれた。
「君の冗談が聞きたかったんだ。」腕で目をこすりながら雄一が言った。「本当に、聞きたくて仕方なかった。」(p.73)
神様のバカヤロウ。私は、私は等を死ぬほど愛していました。(p.147)
ネタバレしてしまうので詳しくは書けませんが、
下手に説明せずとも彼の、彼女の気持ちが伝わってしまう場面です。
また、
作品の中では、“人の死”が常に眼の前に横たわっていますが、
読者が感じるのはおそらく“生命力”ではないかと思います。
登場人物たちが発する言葉の強さは、
何かを乗り越え生きていこうとする人の強さは、
どのようにであれ、生きている私たちの胸に迫ります。
たとえば、今は昨日よりも少し楽に息ができる。また息もできない孤独な夜が来るに違いないことは確かに私をうんざりさせる。このくりかえしが人生だと思うとぞっとしてしまう。それでも、突然息が楽になる瞬間が確実にあるということのすごさが私をときめかせる。度々、ときめかせる。(p.182)
小難しい学術書や専門書でなくとも
自分が気づかぬうちに必要としていた言葉が
小説から不意にこぼれてくることはあります。
ぜひ、自分の休息や栄養補給にでもこの本を使っていただければと思います。
ぜひぜひご一読をば。
P.S.
最近ポツポツと、ブログ読んでるよ、本読んでみたよとお声をいただきます。
ほんとに、死ぬほど嬉しいです。ありがとうございます。
拙いもので見苦しいかもしれませんが、どうか温かい目で見てやってください。