本の棚

れっつ 読書/Instagram@honnotana

『美術手帖 2018年2月号 特集 テレビドラマをつくる』 美術手帖編集部(編)

初めましての方は「とりあえずご挨拶 - 本の棚」をご一読くださると幸いです。

 

すっかり春めいてきました。寒さが遠のき、なんとなくウキウキするような良い季節ですね。春は出会いと別れの季節ともよくいいますが、3月は「毎週観ていたアレが終わるなんて!」「4月クールのアレが待ち遠しい!」なんて会話も耳にします。ということで、今回は出会いと別れを繰り返すアレを特集したこちらの一冊をご紹介。

 

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美術手帖 2018年2月号』 美術手帖編集部(編)

(美術出版社・定価1,600円+税・ページ総数192頁)

 

美術出版社より毎月発行されている『美術手帖』では毎回様々なテーマでの特集が組まれていますが、本号の特集は「テレビドラマをつくる 物語の生まれる場所

実を言うと、私は『美術手帖』を毎月読んでいるわけではない(というかすみません、ほとんど読めていない)ですが、『美術手帖』はやはりアート関連の特集が多いイメージ。本誌の中でも、特集監修者である岡室美奈子さん曰く、 

美術手帖』がテレビドラマを特集する。画期的である。(P.98)

とのこと。いやぁ、この特集がまぁ!なんとまぁ!なんと面白いんでしょう!というお話です。

 

 

本特集「テレビドラマをつくる」は脚本家やつくり手がいま何を考え、どのような物語をつくろうとしているかを、大きなテーマにしている。(P.98) 

たなかみさきさんによる表紙のイラストも素敵ですが、中には様々な“視点”から語られる「テレビドラマ」がそれはもうたっぷりと詰まっています。

各ドラマの脚本家が語る自らの脚本への想い。

ディレクターによる演出の工作。

研究者から見たドラマ主題歌の威力。

有名ブロガーが語るドラマに登場する台詞の巧妙さ。

などなど、「テレビドラマ」を語るここに書ききれないほどの“視点”の数々。

 

これらはすべて、別に重苦しい論文とかではありません。軽い記事や雑誌の対談、インタビューのようなものがほとんどで、読みやすいものです。(ボリュームはたっぷりですけど)

 

そんな中で明確化される、わたしたちにとってかなり身近な「テレビドラマ」という物語の巧妙につくり上げられた底知れぬ魅力。そして提示される、様々なメディアが普及する中での「テレビドラマ」のこれから。

内容としては、かなり、超絶、贅沢だと思います。

 

ちなみに論じられている作品は、『逃げるは恥だが役に立つ』『カルテット』『HIGH&LOW』『リーガルハイ』『コウノドリ』『アンナチュラル』『監獄のお姫さま』『架空OL日記』などなど・・・これまたそうそうたるメンツです。(中には歴代ドラマを新旧問わず紹介してくれるありがたいコーナーも。)

 

そして、ぜひこれも注目していただきたいのが、冒頭でも少し紹介した、本特集監修者である岡室美奈子さんの「総論」。

 

テレビはつねにそれを取り巻く現実と地続きであり、放送途中にCMで分断されるばかりか、(中略)視聴者は前後に同じ画面で放送されるニュースやワイドショー、バラエティの影響を受けながらドラマを見る。連続ドラマなら、主人公にいかに感情移入しようとも、時間がくれば「続く」となっていや応なく日常に引き戻される。だから「ながら見」だってオッケーだし、テレビドラマは取るに足らぬ消費の対象であるという思い込みも発生しやすい。けれども多くのドラマが私たちに深い感動を与え、何気ない日常を見直す契機を与えてくれたことは確かだし、視聴者の日常に直結しているがゆえに、ドラマはいまなお私たちに多大な影響を与えうる。そして優れたつくり手たちは、誠実に現実に向き合い、ドラマというフィクションだからこそ伝えられる何かを伝え続けているのだと思う。(P.99) 

 

テレビドラマって、とても大衆的な娯楽ですよね。多くの人が観るもので、多くの人に受け入れられる魅力をもっている。

上記でも岡室さんが「テレビドラマは取るに足らぬ消費の対象であるという思い込みも発生しやすい。」と語っていますが、個人的にも、映画や本、舞台などよりも大衆的という度合いが強い分、テレビドラマはそれらより軽くみられることが多いと思います。

 

そんなのも手伝ってなのか何なのか、ドラマについて語るとは言っても、普段のわたしたちは俳優さんや監督の方がテレビや雑誌のインタビューに応えるのを目にする程度で、これほど深く真剣に語られる「テレビドラマ」の“内部”を見聞きする機会もそれほど多くないかもしれません。

 

そんな中で『美術手帖』が組んでくれた贅沢なこの特集。

なんなら好きなドラマの特集部分だけでもいいと思います。

(観ていたドラマの分析なんかは私のように首が取れるのではというほど頷けるかも)

ぜひご一読を。 

そして読んだあとはぜひそのまま、ツ〇ヤさんにでも駆け込んでください。

本誌で注目作品とされていた『アンナチュラル』も最終回を迎えてしまいましたが、読んだ後にDVDで一気見できるという幸せなタイミングでもあります。

 

P.S.

特集の話ばかりをしましたが、本誌にはもちろんアートの話題もたくさん掲載されています。中でも「Artist Interview」で特集されているジャネット・カーディフジョージ・ビュレス・ミラーの作品群やインタビューは、カラーの写真たっぷりでとても見応えあるものです。ぜひ!