本の棚

れっつ 読書/Instagram@honnotana

『白夜行』 東野圭吾

初めましての方は「とりあえずご挨拶 - 本の棚」をご一読くださると幸いです。

 

かなり間が空いてしまいました。細々とやっていますのでどうか気長に読んでやってください。

今回は、前回とは真逆の、深く深くどっぷりと浸る作品をおひとつ。

 


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白夜行東野圭吾

集英社文庫・定価1000円+税・ページ総数860頁)

 

 

分厚いですねぇ・・・正直文庫本のくせに重くて持ち運びにくいです。

けれどもこのボリュームに見合うだけの魅力満点な小説です。

読まなきゃ損ですよ!、と押しつけがましく言っておきます。

 

 

容疑者Xの献身』『流星の絆』など数々の名作を手掛ける、言わずと知れた東野圭吾さん。の、これまた言わずと知れた名作。

 

 

始まりはとある質屋殺し事件。掴めない証拠、見えない犯人、難航する捜査。

そこから読者の前に現れるのは

並外れた美しさをもつ心を閉ざした少女、唐沢雪穂と

目に深い暗闇をもつ少年、桐原亮司。

19年という長い年月の中で描かれていく二人それぞれの姿と様々な恐ろしい事件。

真実はどこに隠れているのか。

絶望の中を、必死に生きる二人は最後に何を見るのか。

 

 

ドラマ化・映画化もされましたので、既にあらすじをご存じの方も多いのではないでしょうか。

しかし、原作である小説には大きな魅力として、映画・ドラマと大きく異なる点があります。

 

それは “構成” です。巧みに練られた緻密な構成が組まれています。

 

前述からおわかりかと思いますが、主人公は雪穂と亮司です。

しかし、二人が私たち読者の前で心の内を吐露することもなければ、

二人が何をしているのかさえ私たちにはわからない。

さらに、この二人が直接関わる描写は一部を除いてほぼありません。

あくまで二人は“赤の他人”。

全ては周囲の人間の視点から語られ、

私たち読者も彼らと同様に第三者の視点で二人を見つめるしかないわけです。

 

この構成の中、

何気ないたった一つの行動、たった一言の台詞、たった一文の描写が

19年の間に起こる出来事と絡む細かな伏線、

「まさか」という疑念や二人の痛みを

そっと、かつ確かに、私たち読者に伝えてくるのです。

 

ひとつひとつ明かされる真実と、

それに伴い見えてくる悲劇に

ページを捲る手は止まらなくなります。

分厚いです。でも先を読まずにはいられなくなるのです。

雪穂と亮司、二人を見届けずにはいられなくなるのです。

 

 

 

そして

ストッパーが外れたかのように駆け抜けるラスト、

― 息が詰まります。

 

 

 

時には、悲劇にどっぷり浸るのも良いです。

ボリュームで敬遠される方も多いでしょうが、

読後の満足感は保証できる、と思います。

ぜひ。

 

 

 

P.S.

可能であれば、読後もう一度読み返してみるのもかなり面白いです。

長いので大変ですが、1回目には見えなかったものがたくさんあるかと思います。

 

  「気ぃつけて帰れよ」(P.442)

全てがわかったとき、この場面でのこの言葉を放つ亮司を思うと私は少し泣きそうになります。

 

 

 

『小さな男*静かな声』 吉田篤弘

初めましての方は「とりあえずご挨拶 - 本の棚」をご一読くださると幸いです。

 

相変わらずゆっくりゆっくりと更新しているブログですが、

ゆっくりゆっくりと日々を、自分を、振り返りながら読む、

こちらの本がそんなブログの第三弾。

 



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『小さな男*静かな声』 吉田篤弘

(中公文庫・定価781円+税・ページ総数421頁)

 

映画化された『つむじ風食堂の夜』、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』、『木挽町月光夜咄』といった著作を手掛けるほか、

奥様である吉田浩美さんと共に「クラフト・エヴィング商會(しょうかい)」という名義での執筆・装幀も行い、

2001年には講談社出版文化賞・ブックデザイン賞を受賞されている、

そんな少し異色の肩書をもつ吉田さん10作目の本作品。

 

残念ながらどこの本屋でもあるとは限りませんので、

少し見つけづらいかもしれません。が、ぜひ探して読んでいただきたいです。

 

主人公は百貨店に勤める“小さな男”と

深夜のラジオ・パーソナリティを務める“静かな声” の二人。

そしてその二人を取り囲むミヤトウさん、小島さん、ほか魅力的な人々。

登場人物は数えるほどでストーリーも何かが起こるわけでもなく、極々シンプルです。

 

「あ~いわゆる日常を追っていく系の小説やね」

 

・・・ちょっと違います。

いや、合ってるんですがその一言では片づけられない不思議な引力のある小説です。

二人の日常を追っていくというよりも、

“小さな男”と“静かな声”とそして読者である“わたし”の日常が見えてくるような

そんなお話です。

 

二人の日々はささやかな、本当にささやかな成長や変化の日々ですが、

ひとつひとつが実は大切で、そして実に丁寧に描かれています。

そして読者は読みながら、「そうそう」「確かに」「なるほど」と

二人と共に自分を振り返りながら自分の人生も一緒に進めていく、

そんな体験を得られる。

なかなか他の本では得難い体験です。

 

冒頭に「ゆっくりゆっくりと」と述べましたが、

本作品、読むのに時間がかかります。

決して読みづらくはないです。むしろ読みやすいです。

ただ自然と読む“間”をとってしまう。

 

作家の重松清さんによる解説がかなり良いですので少し引用させていただきます。

 

読みかけの本を伏せて机に置き、ふう、と息を継ぐときの心地よさが味わえるというのもまた、優れた小説にしかできないことではないだろうか?

 

まさにこれです。この感覚です。すみません他人任せですが、まさにこれなんです。

 

さらに、もう一つ私が推したい魅力が、

吉田篤弘さん特有の言葉のはこび方です。

本作品にユーモアと可愛らしさと温かみを添えているのは

吉田さんの言葉です。これはぜひ読んで体感していただきたい。

 

 

さみしいですものね。今日、いまここでこうして二人で話したこととか、話しながら考えたこととか、そんなことがもしかして自分にとっていちばん残しておきたいものなのに

 

ミヤトウさんがつぶやくこの言葉。本作品で一番好きな言葉です。

フラワーカンパニーズの『日々のあぶく』*1にも通じる所がある気がします。


 

 

一気に読んでしまう本も素晴らしいですが

時にはこうした本で、普段考えないことをふと考えながら時間を過ごすことも

素敵やん、なんて思います。

 

ぜひ。

 

P.S.

途中にも述べましたが、本書最後の重松清さんによる解説はかなり素敵です。

読者の代弁者のようです。普段解説まで読まない方もぜひ読んでみてください。

 

 

 

 

*1:アルバム『新・フラカン入門(2008-2013)』に収録されています。

『おはなしして子ちゃん』 藤野可織


初めてこのブログをご覧いただいている方は、記事の一つ目「とりあえずご挨拶」を見て頂けると幸いです。

 

第二弾は、ちょっとゾクッとする不思議な短編集。


 

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『おはなしして子ちゃん』藤野可織

講談社・定価1300円+税・ページ総数219頁)

 

『爪と目』で2013年に第149回芥川賞を受賞された藤野可織さんの

受賞後第一作目となる本作品。

文庫は出ていませんが、ソフトカバーなので比較的軽く、持ち運びやすい本です。

 

まず絵本のように綺麗な装丁に目が行く本書ですが、

タイトルや表紙の可愛らしさからくるこちらの予想を

気持ち良く裏切ってくれるダークな“おはなし”がたっぷり詰まっています。

 

理科室に閉じ込められた「私」が、“あの子”からお話をせがまれる表題作『おはなしして子ちゃん』

14歳から一日に一つ嘘をつかなければ死んでしまう体となってしまった女の子を描く『エイプリル・フール

“ある視点”から描かれる『ホームパーティーはこれから』

など、全10篇の奇想天外な “おはなし” たち。

他では味わえない不気味で不思議な世界観をぜひ味わっていただきたい!

 

奇想天外ではありますが、決して現実離れしたファンタジー小説ではないのも

この本の魅力のひとつです。

どこかで起こっていそうな妙な現実感。

私たちの生活の中に潜んでいそうな不気味さ。

かなり面白いです。

 

そして、人間誰しもが少なからずもっている暗い部分が、

不気味ながらも不思議な魅力たっぷりに描かれているところ。

あなたがそこはかとなく共感を抱いてしまう、

「なんだかわからないこともない」と思ってしまう、

ハッとさせられる、

そんなポイントさえあるかもしれません。

 

こうした異色の世界観を手軽に体験できるのも読書の醍醐味です。

ぜひ一度ご体感ください。

 

 

P.S.

本書は電子書籍でも出ているようですが、

私としてはぜひ紙の本で読んでいただきたいです。

最後に○○が×××して「△△△!」となると思います。

 

 

 

 

『風が強く吹いている』 三浦しをん

初めてこのブログをご覧いただいている方は、記事の一つ目「とりあえずご挨拶」を見て頂けると幸いです。


第一弾は、王道の青春小説です。題材は「走ること」。

 



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『風が強く吹いている』三浦しをん

新潮文庫・定価840円+税・ページ総数670頁)

 

 

王道であり、"胸アツ"です。かなり熱い。

あまり本を読まない方、ページ数を見て「やーめた」とか思わないでください。

長編ですね、でも読み切っちゃうと思います。

 

舟を編む』『まほろ駅前多田便利軒』など人気著作の多い三浦しをんさんの作品。

だいたいの書店で置いてあると思いますので手に入りやすいはずです。

 

主人公はとある事情で陸上から離れた、でも走ることからは離れられない

天才ランナー走(かける)。

そんな走が灰二と出会って、たどり着いたオンボロアパート竹青荘。

そこに暮らす九人の住人達。

年齢も性格もこれから進んでいく道もてんでバラバラ、

ただ住む場所と大学がたまたま同じだっただけの十人のど真ん中で

ある日灰二が放った言葉は「そう、駅伝。目指すは箱根駅伝だ。」

箱根駅伝」とは。「走る」とは。

そしてあまりにも無謀な挑戦の中で、

十人それぞれが目にしたもの、掴んだものとは...

 

 

この作品の魅力の一つは登場人物たちです。

主人公は走と書きましたが、十人全員がほぼ主人公並みの存在感を放っています。

キャラクター的にもそうですが、

彼らの、何かをこらえる姿、逃げ出す姿、屈折する気持ちや様々な喜びは

とても濃く描かれています。

 

そして何より、最大の魅力は終盤、第九章「彼方へ」からの興奮の250ページ。

“迫力”の一言です。長いですが、一気に読まずにはいられない。

まるで彼らを目の前にしているような、

まるで自分が彼らになって走っているかのような、

そんな気持ちになる、胸に迫るラストです。(思い出して鳥肌たってます)

 

 

「ずっとあとになって、俺はきっと、この一年を懐かしく切なく思い返す。」(p.575)

十人のうちの1人、キングのこのシンプルな言葉。この物語を読むと沁みるんです私。

 

 

今「なんか疲れちゃったな」なんて感じてる方にもオススメです。

年齢関係なく"胸アツ"になる時間って、結構なかなかいいもんです。

 

 

ぜひ一度読んでみてください。

この私の拙い紹介では、申し訳ありませんが、魅力は伝えきれていません。

すみません。ぜひ。ご参考までに。ちなみに映画化されてます。

 

 

P.S.

読み終わった方はたぶん箱根駅伝が見たくて仕方なくなってると思いますので

来年のお正月は、箱根駅伝を見る予定を組むことをお奨め致します。

 

 

 

 

とりあえずご挨拶

始めました。

ブログとかあまり続かないタイプですが始めてしまいました。

 

本を紹介します。よくあるブログです。

でも書評ではありません。(素人が難しいこと書いたって、書く方も読む方もよくわからないものになりそうです。)

本は大好きですが、残念ながらそれほど知識が豊富なわけではありません。

難しい用語もわからないし、語彙力もなかなか乏しいです。

申し訳ないです。

 

ただ、

「本でも読んでみようかな」

と、一ミリでも思ったことのあるそこの貴方に本を読んでいただく為に書きます。

「何読んだらええんかわからんし」

「選ぶのめんどくさい」

で、本から離れてしまうそこの貴方に本を読んでいただく為に書きます。

読みたいなと、思ったその時が吉日です!

せっかく面白いものに触れそうなのに、

やめちゃうの勿体無いです。

触ってみないとダメです。

なのでそんな方の本選びのお手伝いができたらと。

暇つぶし程度に、気が向いたときに、ちら見だけでも、読んでみてください。


こういった趣旨ですので、ネタバレは一切ございませんし、

なるべく、どなたが読んでもわかりやすい文章にしていきたいと思っております。


 

「へー、こんな本あるんや」と興味をもっていただけたらスキップします。

「読んでみよかな」とその本を書店やネットで探してもらえたら小躍りします。

「本って意外と面白いやん」と本にハマってもらえたらバク宙します。


 ・・・意外とハードル高いか。

でも、頑張りたいと思います。

もちろん本大好きな方にも読んでいただけたら、跳んで跳ねて一回転して喜びます。

 

 

よろしくお願いします。