『スノードーム』 アレックス・シアラー(石田文子 訳)
初めましての方は「とりあえずご挨拶 - 本の棚」をご一読くださると幸いです。
平昌五輪のフィギュア男子シングルFPが終わったばかりで興奮冷めやらぬまま書いております。とっても感動しましたね。羽生選手、宇野選手おめでとうございます!今冬は本当に寒い。平昌もかなり寒いそうですし、日本でも各地で豪雪が猛威をふるっている。そんな寒い日が続く中、温かいものでも飲みながら読むのにぴったりのこの一冊をご紹介。
『スノードーム』(原題=The Speed of the Dark)アレックス・シアラー(石田文子 訳)
(求龍堂・定価1200円+税・ページ総数423頁)
『チョコレート・アンダーグラウンド』『青空の向こう』など数々の著作で日本でも100万部以上の大ヒットを記録したアレックス・シアラーの作品。どちらかというと“中高生向け”と思われがちな本ですが、“大人”が読むべき一冊でもありますのでオトナの皆さんも侮るなかれ。
物語は、ある1人の科学者クリストファーが不可解な失踪を遂げたことから始まる。「光の減速器」なるものを開発するため不思議な研究に明け暮れていたクリストファー。周囲に「無意味だ」と揶揄されながらも研究に没頭する彼のそばにはいつも謎のドームがあった。
失踪後、彼の同僚であったチャーリーは彼が異常なまでに執着していたそのドームとともにある手記を見つける。その手記には、彼の遺言でもあり回想録でもあるようなある物語が描かれていて・・・
彼はなぜあれほどまでに研究に必死だったのか?
彼はどこに行ってしまったのか?
ぜひとも読んでください、とはいわない。しかし、もしクリスの物語に興味があるなら、彼自身の言葉で彼が書いたとおりのものがここにある。
ただページをめくるだけで、それが読めるのだ。 (P.35)
こうして始まるクリストファーの書いた物語、つまり本作品は、前述のような冒頭からはまったく予想できないものです。読んでから楽しんでほしいのであらすじなどもここではあまり書きませんが、ぜひページをめくってほしいと思います。
一言で言うのであれば、この物語は、芸術と科学を用いた“愛”の話。
愛の話なんて言われたら、薄っぺらい!うさんくさい!鳥肌立つわ!ゲロゲロ!ってなるかもしれませんが、それでも紛れもなく愛の話です。そして決して薄くもうさんくさくもない、とてもリアルで人間味のある愛の話です。
自己愛、守りたいものへの愛、そして自分が決して手に入れられないものへの愛。
それらを抱え、孤独に生きているのがエルンスト・エックマン。醜く、哀れで、素晴らしき美を創りだす才能をもった芸術家。クリストファーの物語の主軸として出てくる人物です。この人物が、かなり曲者で、切なく、魅力的。
エックマンはふたりに背を向け、みじめな我が身をなげきながら、こう思った。
わたしが世の中に背を向けたんじゃない。
世の中のほうが、何度も わたしに背を向けたのだ。 (P.82)
彼がもつ想いは、時に愛情深く、時に痛々しい。途中、本当にこれ中高生にうけるのか?というほど生々しい感情も出てきます。
そしてそんな彼が創り上げた芸術、そこから迎える結末には、言葉が詰まる。
彼とクリストファーはどのような関係なのか、というところも含め、彼らにどんな物語があったのか? ぜひ見届けてほしいと思います。
ファンタジーのような出来事の中に、色濃く描かれた人間の生々しさが対照的な本作品。大人が読むべき一冊です。ぜひに!
P.S.
求龍堂さんから出ているアレックス・シアラーの作品はどれもこれも装丁がとても素敵ですので、ぜひ書店で見かけた際は手に取って眺めてみてくださいね。