本の棚

れっつ 読書

『モダン』 原田マハ

初めましての方は「とりあえずご挨拶 - 本の棚」をご一読くださると幸いです。

 

台風に襲われ続ける日本列島。わたしが住む関西にもまさに今接近中です。皆さん安全第一で気をつけましょうね。

天災続きだし仕事は山積み、休日だってなかなか外出もできず予定も狂ってばかり!と何ともどんよりな今日この頃、バタバタしているうちに季節は一気に秋へと色を変えていきますね。読書の秋、芸術の秋と言われるこの季節にピッタリのこの一冊をお供に、暗い気分を少し軽くして秋を楽しんでもらえたらと思います。

 

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『モダン』原田マハ

 

(文春文庫・ページ総数183頁・定価560円+税)

 

MoMAのニックネームである「Tne Modern(モダン)」と銘打たれた一冊。題名の通りこの本の軸となるのは、ニューヨーク近代美術館「MoMA(モマ)」(日本でも各地のLoftを中心にMoMAのショップが人気を博していますよね。)

このアメリカを代表する美術館に関わる人々が、それぞれに喜びややりきれない想いをもちながら生きる様を、数々のアート作品と、日本の3.11、アメリカの9.11の悲劇を織り交ぜながら描いた短編集です。

 

学芸員を目指しながらMoMAで働く日本人女性が、2011.3.11を機に突き付けられた現実を描いた『中断された展覧会の記憶』

●アートがよくわからないMoMAの警備員が展示室で遭遇した不思議な人物とは・・・アートの見方が変わる(かもしれない)『ロックフェラー・ギャラリーの幽霊』

●とある工業デザイナーが夢を目指すきっかけになったMoMAに関わるある人物のある言葉への回想と今『私の好きなマシン』

●MoMAでの大切な同僚を9.11で亡くした女性が、とある展覧会を前に決断したこととは・・・『新しい出口』

●憧れのMoMAに日本から派遣され夢と希望に溢れた女性。“いろんな意味でスーパー”な教育担当から彼女は何を学んだのか。『あえてよかった』

 

全5編。

 

まずお話したいのは、“アートってすごい。MoMAってすごい。”と、アートど素人に自然と感じさせてしまう描き方。

 

アート小説の秀逸さでも有名な原田マハさん。アートやデザインには疎い私ですが、なんとまぁ、アート知識がするすると頭に入ってくること!

数々の美術館の中でも多くの“先駆け”を創り出してきた「MoMA」の歴史、その裏側でどれだけの人がどんな想いでどのように動いたのか。アートが人に、世の中に、どんな具体的な影響を与えているのか。その一つ一つが各物語の中にさりげなく、でも事細かに散りばめられています。

鑑賞するだけの“物体”ではない、人間を通した“血の通った”ものとしてのアートを学べる素敵な教科書です。

 

 そして何より素晴らしいのは、随所に描かれる、登場人物たちがもつアートに対する熱量。

時代も人種も年齢も境遇もまるで異なる5人それぞれの目線で見た、MoMAを巡る世の中。一つとして同じものはなくとも、静謐な美術館を中心に置きながら、その周辺にいるアートを愛する人々の熱量は同様に激しく、高く、そしてそれに突き動かされる人間の様は少なからず胸にきます。

 

ピカソの凄さが理解できなかった展示室警備員のスコットがある出来事が転機となったのち、ピカソの『アビニョンの娘たち』を前に、放った想い。

そうだとも。目も、毛穴も、心の闇も、全部開いて、見るがいい。

あなたこそが「目撃者」。新しい時代の、美の目撃者なのだから。

この絵が醜いって?ああ、確かに。この女たちは、人間のかたちをかろうじてしているけれど、人間じゃない。

彼女たちが体現しているのは、人間の心の奥深くに潜む闇だ。真実だ。

ピカソ以前の芸術家たちが、決して目を向けようとはしなかった、人間の本質だ。

人間はずるい。醜い。だからこそ「美」を求める。

醜さを超えたところにあるほんものの「美」を求めて、アーティストはのたうち回って苦しんでいるんだ。

心地よい風景、光、風、花々、まばゆいほどに美しい女たち。けれど、美しいものを美しく描いて、だからなんだっていうんだ?

アーティストは、美しいものを美しくカンヴァスの上に再現するために存在しているのか?(p.86)

 

(彼がここまでの想いを放つようになったきっかけについてはぜひ本編で。)

おそらくアートというものは感じ方も考え方も人それぞれですし、もしかしたらもともとアートに造詣の深い人などの中には、このスコットの言葉に異論を唱える方もいるのかもしれません。

しかし、少なくともピカソの作品を目の前にしその魅力を伝えずにはいられない、彼の熱量は、読んでいる者にビシビシと伝わってくるわけです。

 

熱に突き動かされた彼らが、時に眩しい強さを、時に共感する弱さを、時に胸が熱くなる喜びを、時に胸が詰まる悲しみを、魅せてくれる度に、「アートっていいものだな」と呟く自分がいます。

 

「アート」と言われると、嫌悪感を抱く人は少ないかもしれませんが、「よくわからない」と戸惑う人は多いでしょう。私もアートに興味はありますが、そんな節が少しあります。

ただ、そんな人こそ、この本を読めば、“なんとなく避けちゃってた、どことなく距離があった”「アート」という分野が、実は“人間味があって面白い”ということを新たに知る良いきっかけになるかもしれません。

もちろんアート好きな人たちも楽しめるはず。

 

今年の「芸術・読書の秋」のお供にぜひ一冊お手にとってみてください!

 

 

P.S.

読んだ後、めちゃめちゃMoMAに行きたくなるのでお金(渡航費)貯めましょう。