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『人間そっくり』 安部公房

初めましての方は「とりあえずご挨拶 - 本の棚」をご一読くださると幸いです。

 

台風が迫っていますね。関西には本日上陸するようです。皆さん家などで安全に過ごしてくださいね。「くれぐれも外出する際はお気をつけて。」テレビでもラジオでも繰り返し聞こえてきますこの言葉。でも、家の中にいるからといって安全とは限りません。不意にこんな訪問者がやってくるかも・・・ということで今回はザワザワが止まらないこの一冊をご紹介します。

 

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『人間そっくり』 安部公房

新潮文庫・定価362円+税・ページ総数183頁)

 

1951年に『壁』で芥川賞を受賞し、『砂の女』、『箱男』など数々の名作を手掛けている安部公房。いわゆる「純文学」と呼ばれるジャンル。以前ここにアップした太宰治に続き、目をそらす人も多そうなこのジャンル。

さぁ、騙されたと思って読んでみよう!薄いし。軽いし。新潮文庫だから紐のしおりもついてるし、しおり忘れる心配もないし。何より他で味わえないザワザワ感があるし。さぁさぁ。

 

ザワザワ。そう、ザワザワするんです。読みながら。そして読み終わったあとも。

だが、どんなものだろう。こんなことを、いくら書きつらねてみたところで、はたしてどれほど効果を期待できるものやら。第一、この手記が、どんな経路であなたの手にとどいたものか、それさえもまるで見当もつかない始末なのである。狂人のたわごとあつかいが、いいところなのではあるまいか。いや、狂人のあつかいはおろか、万一、あなたが連中の仲間だったりしたら・・・・・こいつはとんだ猿芝居だ、あなたはさぞかし大笑いすることだろう・・・・・ (P.7)

 

 

・・・・・どうかあなたが、ぼく同様に―たとえば、辞書や百科事典にも書いてあり、また誰もがそうと信じて、使いつづけてきたような意味での―≪人間≫であってくれますように!(P.8)

 

わたしたち読者へ向けられた、こんな冒頭から展開していく「ぼく」の“手記”が本作。“手記”の中で描かれるのは、火星へ探査用ロケットが発射されたある日、突然彼の家に訪れた、火星人と自称する奇妙な男と「ぼく」との奇妙な“対話”です。

 

一見突拍子もない話です。「火星人(笑)」みたいな、そんな感じになるでしょう?「ぼく」だって最初はそう思っていました。

やれ地球は火星と違って重力が強いからしんどいだの、地球にある物は火星の物と似てるけど使い方がまったく違うからビックリしただの。

「面倒な気違いが来たな・・・(ため息)」としか思っていなかった。

 

ところがどっこい、火星人と名乗るこの奇妙な男の巧みな弁舌に、自分はいったい何者なのか、何が正しくて何が間違っているのか、何が本当で何が嘘なのか、自分は火星人なのか地球人なのか(!)、しだいにわからなくなっていく「ぼく」。

 

 

自分の存在ってどこまで確かなものなんでしょう。

 

 

たとえば、あなただって―もし、本物の≪人間≫であるかどうかの、物的証拠を求められたとしたら・・・・・おそらく、腹を立てるか、一笑に付してしまうにちがいあるまい。そもそも、人間が人間であるということは、(中略)証明以前の約束事なのだ。(P.9)

 

この「証明以前の約束事」、“当たり前”だったはずのことが脅かされたとしたら。自分が確固たるものと信じていた、というよりも考えるまでもない事実であったはずのものが揺らいだら。自分の足元が崩れていくような言いようもない恐ろしさ。この“火星人”はその口先だけで、「ぼく」をその恐ろしさへじりじりと追い詰めていきます。

そして追い詰められたのち、いったい「ぼく」はどうなってしまうのか。

 

この会話とその結末はぜひ、この本を一気に読んで味わっていただきたい。(そう思ってこの記事でも会話は一切引用していません。)

ほとんどが会話と短い状況説明で構成されている本作。展開がとても早いので(個人的には実写化とかしても面白そうだなぁと思います。)、わりと読みやすいと思います。(さぁさぁ!)

 

読んでいくうちに、「ぼく」だけでなく読者である「あなた」をも巻き込む、この奇妙な男の話術にどっぷりハマって、ザワザワしちゃってください。

ぜひご一読を。

 

 

P.S.

福島正実さんによる解説で安部公房さんが尽力した日本SFのことが少し触れられています。SFについて詳しくはないわたしには面白い情報もたくさんありましたので、ぜひ興味のある方は読んでみてください。この作品がもっと面白くなるかも。