『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』 宮崎夏次系
初めましての方は「とりあえずご挨拶 - 本の棚」をご一読くださると幸いです。
書店などに行って棚に並ぶ膨大な数の本を見る度に、すべての本を読み尽くすことなどできないのだと、なんだか脱力して、同時にまだまだ知らないものばかりだなと、ワクワクします。そんな幅広い本がある中、前回のがっつり純文学とは打って変わってこちらの一冊。このブログでは初の漫画を紹介します。
『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』宮崎夏次系
(講談社 モーニングKC・定価640円+税・ページ総数222頁)
『夕方までに帰るよ』で連載デビューを果たし、その後、同作をはじめとした数々の単行本を出し、その独特の世界観から全国の書店員からも注目を浴びている漫画家、宮崎夏次系の第三の作品集。
ある日、死んだ愛犬のケージに入ってしまった父とその家族を描いた「リビングにて」
両親を失った男子学生が抱く、“大切なもの”を描いた「明日も触らないね」
過去の事故を共有する二人の女の子の再会を描いた「わるい子」
など、九編の作品が収録されています。
九つに共通して描かれるのは、“さみしさ”。
人がもつ「どうしようもないさみしさ」を、どうしようもないまま、素直に描いているこの作品。九編はそれぞれ舞台も登場人物もてんでバラバラですが、登場する人物は皆、面倒で、しんどくて、切なくて、でもどうしても断ち切ることのできないさみしさを抱えています。そんな彼らの(読者の)「どうしようもなさ」を肯定も否定もせず、ただ認めてくれる、そんな作品です。
そうした内容の中で、圧倒的な迫力を生んでいるのが、作者の一見幼稚とも言える絵と数少ない言葉です。一つ一つの話はごく短いものなのに、その迫力にあっという間に心かき乱される感覚。
作者の絵は、決して上手ではないし、人物や背景どれをとっても緻密な絵とは言えません。どちらかというと荒々しく、言ってしまえば雑なほどの絵の数々。けれど、彼女の描くそうした人物たちの表情は、緩急のある動きは、こちらに息の仕方を一瞬忘れさせるようなところがあります。
まさに、漫画だからこそ出せる魅力。絵の力がかなり強い。
例えば、「明日も触らないね」の見開き1ページ、あの娘の前で傘が開いたあの瞬間。あの2コマで何かグッと胸につまる感覚は、この漫画を読むことで初めて体感できるような気がします。
そして、そうした絵とともにぽつりと出てくる言葉は、何食わぬ顔で読み手の心を奪う。
好きなものは世の中にいっこでいい
失くしたらおしまい
そんな感じの
(P.9 第一話「明日も触らないね」)
他ジャンルの本ではなかなか真似のできない、漫画ならではの表現力をぜひ他でもないこの一冊で実感してもらいたいと思います。
これまでに無い漫画、ぜひご一読を!
P.S.
この世界観にハマりそうな方は、ぜひ宮崎夏次系作品を借りるのではなく購入していただくことをお奨めします。読み返したくなる作品、多しです。