本の棚

れっつ 読書/Instagram@honnotana

『鳥肌が』 穂村弘

初めましての方は「とりあえずご挨拶 - 本の棚」をご一読くださると幸いです。

 

最近寒いですね。大寒波が猛威をふるって・・・もう堪らないです。お風呂から上がる時なんかに鳥肌が立つこともしばしばですが、たまにはこんな本を読んで、クスッと笑いながらもちょっとした怖さに鳥肌を立ててみませんか。

 

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『鳥肌が』 穂村弘

PHP研究所・定価1500円+税・ページ総数248頁)

 

歌人でありながら、エッセイや絵本など様々なジャンルを手掛ける穂村弘さんが2016年に出したエッセイ集。穂村さんが日常生活の中でふとした瞬間に感じる、恐怖や違和感を穂村さんらしい親しみやすく軽やかな文章で綴っています(穂村さんの書く文章は読みやすい!)。ホラーではないのでご安心を。

本書には、

ホームの一番前には絶対に並ばない。もし背後から不意に押されでもしたら・・・。という恐怖を語った「次の瞬間」、

自らの恐怖で他人と話すことへのハードルを上げてしまう「他人に声をかける」、

電車の中でふと“自分以外の人間はみんな他人の心が読めるんじゃないか”という考えがよぎってしまった恐怖を綴った「自分以外の全員が実は」

などなど44篇のエッセイたちが並んでいます。

 

一見、そんなことそうそう無いでしょ・・・ぷぷぷ。と思われるかもしれませんが、一つ一つの“鳥肌”エピソードは、「なるほど。そうかもしれない」「もしかするとそんなこともあるかも」「それってもしかして・・・!」と私たちを納得させる、時にはしっかりゾゾッとさせるものです。

それが、善意や励ましの気持ちからであっても、誰かの心に「言葉」を贈るのはこわいことだと改めて感じた。音楽や絵画と違って、「言葉」は意味から自由になることができない。それを見たり聞いたりした者の心には必ず「意味」の解釈が入り込む。そこに致命的な ズレが生じる可能性があるのだ。(P.188 「お見舞いの失敗」)

 

そして、そうしたエピソードの最後、「仔猫と自転車」と(わりとどの本でもお奨めはさせてもらっていますが、)作者によるあとがき。ぜひ注目して読んでいただきたいです。

クスリと笑いながら、フムフムと納得しながら、ヒェーと怖がりながら、面白く237ページまで読み終えた私たち読者へ用意された、ちょっと毛色の違うエッセイと、作者の想いが垣間見えるあとがき。「仔猫と自転車」はさらっと読めばたった5ページで終わってしまう短い文章です。あとがきも初めはただ単に飲み会が苦手な作者の話から始まります。

けれど、なんとなく自分に何か問われている気がするのはなぜでしょうか。ふと何かをそっと目の前に晒された気持ちになるのはなぜでしょうか。

 

もちろん読む方によってはそんなこと全く感じない!という方も(おそらく性格によるものだとと思いますので、)いらっしゃると思いますが、この本の愛すべき一つのポイントとしてこの最後の2つの話は挙げられるべきではないかと思います。

 

 

エッセイも小説とはまた違った面白さが詰まっています。普段あまり覗くことのできない作家さんの一面をエッセイから覗いてみるのもアリです。

ぜひご一読を!

 

 

P.S.

表紙には“鳥肌”があしらわれていたり、中の紙はツルツルとした抜群の手触りだったり、しおりの紐もなんか変わっていたり、となんとも素敵な本です。興味があれば本屋さんで触ってみてください。